水は低い場所を選ぶ

吹き割の滝上流

 普段あまり気にしていないことだが、地上に降った雨や雪の多くは、地球の重力に従って高い所から低い所へと流れる。だから、屋根や道路は雨水を流したい方向に傾斜をつけるし、田畑を潤すための用水の取水口は上流の標高の高い所に設けられる事が多い。

 

 この水が高い所から低い所へと移動したがる性質を利用したのが、ダムによる高低差を用いた水力発電だし、ブナなどの植物は葉に当たる雨を枝に誘導し、幹を伝わせて自らの根元へと水を誘導しているのだ。

 さて、こうして集まってゆく雨水はやがて明瞭な流れとなるが、どんなに細い流れでも直線的に流れる場合は、地面や地表に接している部分の流速は遅く、流れの中央部は早い傾向にある。(写真の河川中央部ある暗い筋)

河川横断面と流速

河川横断面のイメージ

 大まかな流れの速度は、川面に立って眺めると良くわかる。両岸の浅瀬は比較的流れが緩く、川の中心に近いほど流速が早いのが目に付くであろう。 ところが、水面下にもこの広がりが存在していて、どんなに急流であってもその多くの川底付近では、ゆったりとした水流が存在している。 

 また、直線的に下ってきた水流の流れる方向が変わると、水流は遠心力で外側へ外側の岸際は激しい流れが生じるし、流芯から離れた反対側の岸近くは、水の流れが穏やかになり上流から運ばれた土砂が堆積する場所もある。

 魚は自分にとって都合のいい場所にとどまる傾向がある。都合の良い場所とは、餌を多く捕れる場所だったり、体力を消耗しない場所の事もあれば、産卵に適した場所や外敵から自分を隠せる場所の事もあるだろう。そして、こういった場所は川底やヘチ(汀)などに多く点在していて、概して河川の流速が早い流心には存在しない。

河川縦断面と流速

河川縦断面のイメージ

 川の断面を上流から下流へと横から眺めた場合、概ね画像のようになっている。源流付近の小さな流れで観察するとよく見てとれると思う。また、沢や支流が合わさり水量が多くなると、画像のような断面の構造は見分けづらくなってしまうが、川底には画像のような小さな構造(障害物は拳程度から)が無数に存在し全体で、画像のような大きな構造を作っている。

 川底付近の流速は、水深と川底の形状・障害物の有無、川幅と川の傾斜によって複雑に入り組み、一言で表現するのは非常に難しいのだが、大まかに下記の通りである。

  • 障害物の下流部には、緩流が存在する。
  • 水深が深い程、緩流部が広く存在する。
  • 瀬等の水深が浅い所は、急流部が多い。
  • 水の流れる幅が広ければ、流れは緩い。
  • 水の流れる幅が狭ければ、流れは速い。

水生昆虫と魚の好む流速

河川縦断面と昆虫

 イワナ・ヤマメ等の魚の主だったエサは、昆虫や小魚・イモリや蛙などの生活環境下で最も多い生物に集中しているだろう。中でも川虫類は、重要な位置を占めていると感じる。

 これは、四季を通じて水生昆虫の大きさや個体数の増減はあるものの、通年生息していることや川底を這い回る川虫を啄んだり、時折流れ来る川虫を捕えるのは水中に生活する生き物同士では、極自然なこと事なのかもしれない。

 さて、川虫達の多くは有機物の多い川底の砂や泥の表面。あるいは、藍藻や珪藻類の生える水中の石や岩などのを生息地としているが、彼らが何らかの原因により流下すると、必死に泳ぎもがきながら、緩流帯へ戻り、川底に帰ろうとする。水中以外(空中・樹上)の場所から供給されるエサに付いては、中々、水から脱出できずに長い距離を流れ下る。

 

流れの観察が重要

緩い流れのヤマメ

 魚は、水中を流れる昆虫と川に落ちたり羽化して水面を漂う昆虫の両方を見渡せる位置に陣取り、流下する虫達をしきりに追うと考えていいだろう。また、大量のカゲロウが羽化する場合は、水面上に意識を置いている場合もあるし水生昆虫が羽化してしまった(夏)の川では、ハリガネムシに唆されて水面にダイビングするカマキリやカマドウマを主体に捕食していることもある。

 釣りを始める前によく観察すると色々な事が見えてくると思う。ポツリ・ポツリとカゲロウが流れる時に元気に水面を割って捕食(ライズ)する場合は、同じポイントに数匹のヤマメがいるからかもしれないし、ブナ虫が流れているときに、モコリとイワナが捕食しているならもうお腹がいっぱいなのかもしれない。

さて、バシャリと水面に出るのは『鳥などの捕食者に食べられない為に急いでいる』とか『命の危険をおかして捕食している』とか言われる事があるが、自分はそんな事はないと思う。魚達は人類の歴史より遥かに長い時間を生き抜いてきた。『命の危険=種の存続に関わる案件』だとしたら、とっくに何かしらの捕食に関する進化をしていると思うのだ。

 水面から元気に飛び出すのは、上層部の流下速度を上回るスピードが必要だったり、ライバルに先を越されない為に行動した結果飛び出してしまっただけで、危険を察知して捕食(バシャリ)しているのではない。同様に、落ち込みなどのポイントを観察していると、自分の居ついている場所(緩流帯)から水中沈み込んだ昆虫に対して、彼らは猛スピードで突進して他者より早く捕食しようとするのだから・・・

 ただ、ドライフライで釣っていると、流下するフライに寄ってきた魚がユックリと毛鉤の品定めをするような場面も見られ、魚といえども学習したり用心深くなったりするものだと感じる事も多い。