イワナ ヤマメの住む川
私が育ったのは、群馬県北部の薄根川最上流部ある川場村。実家は、村内でも標高の高い所にある集落だったから、今よりも冬は寒く雪も沢山降った。春先、コシアブラヤやタラの芽などの山菜狩りで両親と一緒に武尊山周辺の名もなき山に分け入れば、大きなブナやミズナラの木に驚いたものである。
春先の山々と雪解け水が流れ込む川岸は美しい。前年の落ち葉色に染まる林の中を強く照らす日の光に、白樺やブナの木肌は輝いて見え、少し湿った窪地でコゴミやフキが伸び始めると、小さな小虫たちも飛び始める。
今から40年以上前のこと。『市場へ出してもコシアブラが売れないだよな~』と嘆いていた両親の声を聞き流しながら、カエルの産卵や残雪の上を這いまわるカワゲラをかまって遊んでいたあの頃が懐かしい。。。
さて、山奥の寒村で育った私にとって、魚といえばイワナ・ヤマメ・カジカ・ウナギ、そして家業が養鱒業だったからニジマスとコイの6種類しか知らなかった。高校を卒業するまでウグイやオイカワなどは見たことがなかったから、初めて見たときは、綺麗な魚だとも思った。小中学生の夏休みは、ヤスもって川へ行きカジカやヤマメを突いた。カジカはよく獲れた覚えがある。ヤマメはすばしっこく簡単には突けない。でも、時々石の下に頭だけ突っ込んで尻尾が見えていることがある。だから、幾つかは捕った記憶がある。イワナは、石の隙間に潜りこむのがうまい。大きい体格をしていても、うまく隠れる魚だ。
社会の出てから、週末には釣りに出かけるようになったが、当時の群馬県の渓流魚の解禁は3月20日だった。春のお彼岸から4月の上旬はまだ雪が降る季節だから、日当たりが良く積雪量の少ない沢筋を中心に釣って歩いたが、釣れる魚は小さくて、痩せ細り、黒くサビているものばかり。いつの頃か、3-4月中は沢釣りから沼田の市街地周辺の放流魚で気を紛らせ、沼田盆地を取り囲む山々に桜の花が咲き始めると、片品村や水上、川場の渓流によく出かけたものだ。